歩幅と認知症発生リスクの関係

コラム


高齢者の4人に1人が罹患すると言われる認知症ですが、いまだに根本的な治療法は確立されていません。そんな中、歩幅を広げて歩くことが認知症予防に役立つという研究報告があり注目されています。今回は、歩幅と認知症発生リスクの関係についてご紹介します。

認知症と歩幅の関係

1,000人以上の高齢者を対象に行われた調査において、歩幅が狭い人は、歩幅が広い人に比べて、認知機能が低下するリスクや認知症発症のリスクが3倍以上高かったことが報告されています。また、歩幅が狭い状態のまま年齢を重ねると、認知症発症のリスクが2倍以上になることも示されています。

歩く速度は、「歩調 (テンポ)」 と「歩幅」の2つの要素 によって決まります。歩調による認知能力への影響はなかった一方で、歩幅は脳の活動に大きく影響を与えることが判明しています。歩幅の調整にあたっては、脳の中で多くの部位が関与しており、そのため歩幅が狭くなっている場合は、脳のどこかで異変が起こっている可能性も考えられるとのことです。

認知症患者の約6割を占めるアルツハイマー型認知症は、およそ20年という長い年月をかけて少しずつ病態が進行し、軽度認知障害の状態を経て発症に至ると考えられています。認知症発症に至るまでの脳内の異常・変化が、少しずつであれ、脳の働きとそれに続く歩幅調整にも共通して影響することから、歩幅が脳の状態を表すサインになっていると捉えることもできるのです。

歩幅を広げる努力により脳内の新たなネットワークを構築

脳の働きは、通常、加齢とともに徐々に衰えていきます。これは、神経細胞の減少やシナプス(神経間の伝達)の異常によって、脳内のネットワークがうまく機能しなくなることが原因とされています。

しかし、脳内のネットワークの一部に異常を来したとしても、新たな刺激が加わることで、別の神経細胞が新たな回路を作って新しいネットワークを構築し、その結果、脳機能は維持・改善されます。
新たな刺激としては、脳を活性化させるための脳トレーニングや有酸素運動などがありますが、「歩幅を広く維持する」という動作によっても、脳への刺激効果があると言われています。歩幅を広げるという動作は、一見単純な動作のようにも思われますが、足腰の筋肉を適切に使って転ばないようにバランスを保つ必要があり、脳と足の間では複雑な情報のやり取りがひっきりなしに行われることになります。「歩幅を広く維持する」という努力動作は、ただそれだけでも、脳におよぼす影響は非常に大きく、脳内の新たなネットワーク構築にも貢献するのです。

歩幅を広げるための正しい歩き方

歩幅を広げ、かつ安定した歩行を実践するには、以下の2つのテクニックを参考にしてみてください。

1つ目は、お尻をきゅっと引き締めて立つことです。骨盤が立ち上がるため、背筋が伸び、股関節の可動域が広がります。2つ目は、腕を後ろに振るように意識することです。腕を後ろに引くと肩甲骨が大きく動き、その結果、骨盤や下半身の筋肉が連動して歩行が安定します。

ちなみに、「65㎝」を歩幅の目安とするとよいようです。歩幅は、片方の踵からもう片方の踵までの距離です。横断歩道の白線(約45㎝)を踏まずに歩いて越えることができれば、「45㎝」+「足の大きさ(約25cm)」となり、目標の歩幅「65cm」をクリアしていると考えることができます。

まとめ

認知症の予防として、運動が必要不可欠であることは、多くの研究で報告され定説になっています。そして、運動のみならず、生活の中で歩幅を意識的に広げることを加えれば、脳の多くの部分を刺激し活性化することが期待できます。
運動不足を自覚している人も、今から、歩幅を広げた歩き方を意識的に取り入れてみてはいかがでしょうか?

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