「脳ドック」がアメリカで実施されない理由とは

コラム

脳疾患の早期発見と予防のために行われている脳ドックですが、実は脳ドックを実施している国は世界で唯一日本だけだとご存知でしょうか。
今回は、日本の常識「脳ドック」が世界、とりわけアメリカで普及しない理由について解説します。

脳ドックとはどんな検査?


脳ドックは、脳梗塞やくも膜下出血といった脳疾患のリスクを早期発見するために行われる健康診断の1つです。脳ドックで行われる主な検査は、MRI(脳の断層撮影)、MRA(脳の血管撮影)、頸動脈超音波検査(首の血管が狭くなっていないか調べる検査)です。これらの画像検査に、必要に応じて心電図検査や血液検査などを組み合わせ、脳疾患のリスクを早期発見し予防することが脳ドックの目的です。

脳ドックがアメリカで実施されない理由


脳疾患の早期発見・予防のために行われている脳ドックですが、実は脳ドックを実施している国は世界中見渡しても日本だけなのです。

アメリカの予防医学専門委員会は、「一般成人に対するスクリーニング検査として頸動脈超音波検査は推奨すべきものではない」との見解を出しています。同委員会が「頸動脈超音波検査を推奨しない」という立場をとる主な理由は以下になります。

● 頸動脈超音波検査では多くの偽陽性がでる
● 早期介入によるメリットを示した科学的エビデンスがない

それぞれ説明します。

1. 頸動脈超音波検査では多くの偽陽性がでる
頸動脈狭窄(脳へ酸素を運ぶ役割を果たす首の血管が狭くなった状態)は脳卒中(脳梗塞やくも膜下出血など)の危険因子ですが、自覚症状のない脳卒中のうち、実際に頸動脈狭窄が原因となるケースは多くありません。一方で、頸動脈超音波検査では多くの偽陽性がでます(偽陽性率が36.5%だったというデータもあります)。
偽陽性とは、本当は陰性(異常がない)であるにも関わらず、陽性(異常の可能性がある)と判定されてしまうことをいいます。偽陽性になったがゆえに、本来必要のない精密検査が必要となり、それら検査に伴う合併症のリスクにさらされることになってしまいます。

2. 早期介入によるメリットを示したエビデンスはない
頸動脈狭窄が指摘されたとしても、自覚症状のない頸動脈狭窄では手術のメリットは限定的で、むしろ検査・手術による合併症のリスクがメリットを上回る可能性があります。また、高血圧や糖尿病などの内科的管理・治療のように有効性・安全性が確立した治療法はなく、自覚症状のない軽度の頸動脈狭窄では、不安を抱えながらも、結局は生活改善を図りつつ定期的な診察・検査でフォローしていくといったくらいのことしかできません。

上記2つの理由以外にも「超高額な検査費用」も、アメリカで脳ドックが普及しない理由の1つだと考えられます。脳ドックは日本では2万円〜5万円程度ですが、アメリカではMRIのみでも10万円を超えます。

そしてもう一つ、日本でも脳ドックのデメリットとしてしばしば指摘されているのが、異常が見つかった際に受ける精神的影響です。治療対象にもならず、結果的にはなんら問題を起こすことのない小さな動脈瘤(くも膜下出血の原因になりうる)であっても、存在を知ってしまった以上とにかく不安になってしまい、うつ状態にまでなってしまう人も少なくないようです。

こうした実状から、アメリカでは、特に症状がなく遺伝的素因などもない人にとって、脳ドックは「コストパフォーマンス」のかなり悪い検査ととらえられており、健診として推奨されていないのです。

まとめ


日本でも脳ドックの受診率は決して高いとはいえません(20%未満)。
脳ドックは、メリット・デメリットを理解したうえで、異常を指摘されても今後の生活改善につなげるという前向きな覚悟をもって臨むことが大切です。

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